サンパウロの危険イロイロ
「いやでもさ、ずっと面倒見てもらうのも申し訳ないし・・・」
「私がダメだったら誰か友達に頼むわ。とにかく1人では歩かないこと」
ブラジル人の親友は、滞在中ずっとわたしに付きっきりだった。そこまでしなくても・・・と恐縮しきりだったが、その国で生まれ育った彼女が言うことだからと、やさしい過保護をきちんと受け取ることにした。
サンパウロの治安は良くない、と聞くけれど、実際どのくらい危険なのか私はわからない(厳重管理の下にいたので怖い思いを一切していない)。ただ、ブラジル国民は常に身分証明書を持ち歩く必要があり、旅行者ならパスポートが必携だ(ちなみにコピーじゃダメ)。
「もしも町中で乱闘騒ぎなどに出くわした場合は、すぐさまその場を離れること。ひとまとめに警察に捕獲されたら開放されるまでが大変だ。身分証明書を持ってなければ、大使館への連絡すらさせてもらえない」ガイドブックにはそう書いてあった。
どのアパートにも頑丈な柵があり、決まって管理人が24時間体制で勤務している。一戸建てでも防犯対策は相当のものだ。日本の一般的な一戸建ての門(というか柵?)によくある、内からも外からもひょいと鍵の開け閉めができる門なんて、ただの飾りに過ぎないことを、サンパウロの防犯対策を見て知った。
「叔父さんの車の窓は銃で撃たれても割れない特殊な強化ガラスなの♪」
あ、そんな準備が必要なんだねっっ♪ ルン♪
って、そんな車は大統領と有名人ぐらいしか乗らないのかと思ってたワン♪
パリからミラノ経由でサンパウロに入ったとき、国境を越えるごとに、一枚一枚性質という名の皮を脱いでいくように、人々が「陽気」になっていくのを感じた。こんなに明るくて太陽みたいな町で、それほど恐いことなんて起こるの? 何度も彼女に聞いたけど、「何も起こらないかもしれないけど、何が起こってもおかしくない」というのが彼女の考えだった。
サンパウロはとにかく坂が多い。下って下って上って上って。主要な幹線道路を除けばすべての道が坂道なんじゃないか、と思ってしまうほどだ。そして、小さな道にはふとした瞬間にひっそりと近寄りがたい空気が漂う一角が現れたりする。ボロボロの壁、ガラスのない窓、靴を履いていない人々、数人で集まり何をするでもなく見えない何かをじっとりと見つめていたりして。
夜なら決して歩けない臭がプンプンする界隈がフイと出現する。普通の街中にあまりに唐突に出現するものだから、その臭いを事前にかぎ分けることは旅行者の私には困難だな、と思う。
「ある日、友達と夜ご飯を食べて、駅から家に向かう途中、男の人に声をかけられたの。“そのスニーカーいいね。頂戴よ”って。その場で脱いで渡して、家まで裸足で帰った」と親友。
周りにはアパートが立ち並び、人通りもある道だったって。「ねぇ、その靴ちょうだい」って言われたら、靴以外のもの(体とか命とか)を奪われる前に黙って靴を差し出す。それが、この町で必要なことなんだね。
誰もが怖い目に合うとは限らないし、そんなに危ないことだらけならオリンピックなんて開催できるわけがない。だから私たちの防犯意識は過剰だったのかもしれない。でも、少なくとも私は危ない思いを一度もせず、ただただ美味しく、とてつもなく幸せな日々を過ごした。
ということで、何が言いたいかというと。
「街中ではカメラを出しちゃダメ!」というおふれのもと、街の写真が一切ありません。家の中、レストランの中、ホテルの中で撮るばかりだから、食べ物の写真しかないのよね。
ブラジル滞在中は、親友の叔母さんの家にお世話になっていたのだけど、いまは子育てのために専業主婦をしているミエ叔母さんの本職は栄養士で、朝から夢のように美味しいものがテーブルに並んだ。モッチリフカフカのポンジケージョとか、肉と豆の煮込みとか、一度に数種類のケーキとか。
いとも簡単に、眼を見張るようなご飯を作るものだから、ミエ叔母さんの手にはもしや魔法でもかかってるんじゃないかと、疑いを持ったぐらいだ。
ミエ叔母さんの作るごはんはもちろん、市場で食べたものやフルーツ、パンやチーズやハムなどどれも抜群で、ブラジルに降りたその日から、ワタシの体重と顔の大きさはみるまに増加の一途をたどった。
「あらー太ったわね」は、帰国後一発目の母のセリフ。
「マツコデラックスみたいジャン♪」は、
東麻布にあるなじみのお店のシェフのセリフだ。ひどいよ、ひどすぎる。
とても全部は紹介しきれないけれど、ブラジルは美味しいものがてんこ盛り。治安以上に「危険」な国なんだよ。
500%肉食だし。
もしも「今月中に5キロ増やさないといけないの!」なんて、役作り中の俳優みたいな状況の人がいたら、ブラジルに行けばいい。
絶対太れる。